「…もう…眠りなさい」
素早く呪文を詠唱し、ユンファはそれに火をつけた。
異形のそれは次第に火に包まれ、大きな炎の塊となった。
ユンファは燃える塊を、険しい表情で看取っていたが、塊に浮かぶ顔が笑っているような気がして、複雑な心境となっていた。
―――
「ご存知ですか? 大昔、マーフォークに惑わされ海や空を駆ける能力を持ってしまったエルフの話を」
「あら、文献によっては、エルフがマーフォークを誘惑したって言う説もあるわよ」
「……。」
「ま、何れも、作り話のようだけどね」
―――
「で、蒼の魔女をこんなところに呼びつけて、なんの御用かしら、『翠(みどり)の女王』様。」
「……ずっと、見ていました。あなた方の行動を」
「……千里眼ってやつ? ザイカよりも強力そうね」
「もう、あの力を求めるのは止めてください。」
―――
「え?」
「もう一度申します。何度調べても、あなたの記録はこの国にはありません。」
「そ、そんな!確かに僕は、この国を覚えている!」
「じゃあ、なぜ記録にあなたが存在しないのです? ほかにエルフの集落などあるわけ無いですし」
―――
「あなたの姿が、見えないんです。私にもわかりません」
「姿が、見えない?」
「ええ、視野に入れば見えますが、千里眼を使うと、途端に確認できなくなるのです」
―――
「あなたには、わからないでしょうね!! 一度に愛するものと愛しいものを同時に失った私の心など!!」
長い栗色の髪をした、赤い瞳の、しかし右目だけはえぐられた様な痕がある、美女の顔がそこにはあった。
「見なさい。この右目は私の象徴よ。あの力で、全てを失った。」
―――
「戦争でもやろうっての?」
ユンファはいつものおどけた態度で答えた。しかしユンファにも判っていた。この回答があながち誤りではないことを。
「そう、だろうな。そうとしか考えられん。」
ロッカブは、ユンファが一番聞きたくなかった回答を口にした。
―――
「造船はどれくらいまですんだのかい?」
「は、おおよそ、全体の8割はできております」
それを聞いた白髪の女性は、フンと鼻を鳴らし、明らかに不機嫌な態度をとった。
「もう少し、端者をつかってもいいから、ペースを速めること。いいわね?」
「は、判りました。」
法衣を身につけた神官は深々と頭を下げ、部屋を後にした。
「これは、世界を守るための戦いなの。」
サディの顔が途端に歪んだ。それは狂気の笑いに見えた。
―――
「やっぱり可笑しいヨ」
「? 何が?」
急に話題を変えられ、ザイカはすっとんきょんな返事しかできなかった。
「みんな、ね。ユンファは元気ないし、エクリドって言う人は、なんか怪しい。テンザっていうひとは、今度いく国は、行きたくナイって。グドは、最近遊んでくレナイ。コーダは……。良くわかんない」
「…僕は、君が一番わからないよ。」
―――
「船長は戻ったか!!」
「い・・・いえ!まだです!」
「…テンザも、ザイカもいない! くそ!」
多勢に無勢だった。一挙に4つの国と戦争しようとしている船団が目の前にいるのだ。海賊船1隻では到底敵う相手ではない。
「…この海域を、離脱するぞ! 船長たちも置いていかないと、俺たちが危険だ!」
「いや、しかし!」
―――
「……やれやれ、仕方ない」
巨大な体を揺らし、そのドラゴンは船の倍はあろうかという翼を羽ばたかせた。
強烈な風が舞い、海面が大きく波打った。
―――
「…また、私を置いていくのね…。」
―――
「さ、つながったよ。これが新天地だ。私が求める…」
―――
「この力…。これで終わるのなら、この力を使うしかない!」
―――
「じゃあね、ザイカ、楽しかった」
―――
「そうか…僕が…」
―――
「僕が…」
―――
「おはようございます、ユンファさん。」
「コーダかしら?おはよう。相変わらず美しい声ね。」
(ネタバレでした。作者の都合で、今後かなり修正加筆されるとは思いますが…。)
素早く呪文を詠唱し、ユンファはそれに火をつけた。
異形のそれは次第に火に包まれ、大きな炎の塊となった。
ユンファは燃える塊を、険しい表情で看取っていたが、塊に浮かぶ顔が笑っているような気がして、複雑な心境となっていた。
―――
「ご存知ですか? 大昔、マーフォークに惑わされ海や空を駆ける能力を持ってしまったエルフの話を」
「あら、文献によっては、エルフがマーフォークを誘惑したって言う説もあるわよ」
「……。」
「ま、何れも、作り話のようだけどね」
―――
「で、蒼の魔女をこんなところに呼びつけて、なんの御用かしら、『翠(みどり)の女王』様。」
「……ずっと、見ていました。あなた方の行動を」
「……千里眼ってやつ? ザイカよりも強力そうね」
「もう、あの力を求めるのは止めてください。」
―――
「え?」
「もう一度申します。何度調べても、あなたの記録はこの国にはありません。」
「そ、そんな!確かに僕は、この国を覚えている!」
「じゃあ、なぜ記録にあなたが存在しないのです? ほかにエルフの集落などあるわけ無いですし」
―――
「あなたの姿が、見えないんです。私にもわかりません」
「姿が、見えない?」
「ええ、視野に入れば見えますが、千里眼を使うと、途端に確認できなくなるのです」
―――
「あなたには、わからないでしょうね!! 一度に愛するものと愛しいものを同時に失った私の心など!!」
長い栗色の髪をした、赤い瞳の、しかし右目だけはえぐられた様な痕がある、美女の顔がそこにはあった。
「見なさい。この右目は私の象徴よ。あの力で、全てを失った。」
―――
「戦争でもやろうっての?」
ユンファはいつものおどけた態度で答えた。しかしユンファにも判っていた。この回答があながち誤りではないことを。
「そう、だろうな。そうとしか考えられん。」
ロッカブは、ユンファが一番聞きたくなかった回答を口にした。
―――
「造船はどれくらいまですんだのかい?」
「は、おおよそ、全体の8割はできております」
それを聞いた白髪の女性は、フンと鼻を鳴らし、明らかに不機嫌な態度をとった。
「もう少し、端者をつかってもいいから、ペースを速めること。いいわね?」
「は、判りました。」
法衣を身につけた神官は深々と頭を下げ、部屋を後にした。
「これは、世界を守るための戦いなの。」
サディの顔が途端に歪んだ。それは狂気の笑いに見えた。
―――
「やっぱり可笑しいヨ」
「? 何が?」
急に話題を変えられ、ザイカはすっとんきょんな返事しかできなかった。
「みんな、ね。ユンファは元気ないし、エクリドって言う人は、なんか怪しい。テンザっていうひとは、今度いく国は、行きたくナイって。グドは、最近遊んでくレナイ。コーダは……。良くわかんない」
「…僕は、君が一番わからないよ。」
―――
「船長は戻ったか!!」
「い・・・いえ!まだです!」
「…テンザも、ザイカもいない! くそ!」
多勢に無勢だった。一挙に4つの国と戦争しようとしている船団が目の前にいるのだ。海賊船1隻では到底敵う相手ではない。
「…この海域を、離脱するぞ! 船長たちも置いていかないと、俺たちが危険だ!」
「いや、しかし!」
―――
「……やれやれ、仕方ない」
巨大な体を揺らし、そのドラゴンは船の倍はあろうかという翼を羽ばたかせた。
強烈な風が舞い、海面が大きく波打った。
―――
「…また、私を置いていくのね…。」
―――
「さ、つながったよ。これが新天地だ。私が求める…」
―――
「この力…。これで終わるのなら、この力を使うしかない!」
―――
「じゃあね、ザイカ、楽しかった」
―――
「そうか…僕が…」
―――
「僕が…」
―――
「おはようございます、ユンファさん。」
「コーダかしら?おはよう。相変わらず美しい声ね。」
(ネタバレでした。作者の都合で、今後かなり修正加筆されるとは思いますが…。)
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