「いろいろなことが同時にありすぎだ。」
《ホッフロ》は頭を抱えた。額には汗がにじんでいた。《翠の女王》から外交を任されたが、外の世界がここまで混沌としていたとは考えていなかった。
「ぼ、ボクのこと、知りませんか!?」
《ザイカ》は、《桃源郷/FairyLand》から来たエルフに問いかけた。しかし《ホッフロ》は彼を無視した。女王の命令以外のことには興味は無い。
「どういう意味だ?」
代わりに《リト=ハク》がザイカに聞いた。
ザイカは一瞬、美しいエルフの女戦士に見惚れてしまった。
「あ、あの」
「彼の名は《ザイカ》。記憶喪失らしいの。私が《エウルべ海》で拾ったのよ」
口篭ったザイカの代わりにユンファが回答した。
《エウルべ海》は、《エンヴィロント》と《ノウルオール》の間にある海の名前である。エウルベ海は比較的穏やかな潮の流れであるが、その周囲の潮流は複雑なため、ノウルオールから直接、エンヴィロントへ行くのは難しい。
リト=ハクは、ザイカのことを知らなかった。その場にいたほかのエルフも、彼のことを知らなかった。
落ち込む《記憶喪失のエルフ》に、リト=ハクはひとつの希望を与えた。
「《緑の桃源郷》には数多くの《記憶》が眠る。その中に君の事も残されているかもしれない」
「彼は《ツエイド》。エルフ1の地図作りだ。彼が海図を描いている。」
ホッフロがもう1人のエルフを紹介した。後ろにいたエルフがフードを脱ぎ挨拶をした。老けても無く、若くも無い。
ツエイドは早速海図を広げ、エンヴィロントへの道程を説明し始めた。
「現在この海域には、季節潮がこのように流れています。我々の国には、この潮流に乗らないと……」
「ちょっとストップ」
ユンファが遮った。
「私は、一言も『そこに行く』とは言っていない。私が行く必要が無いしね。それにまだ、大きな問題がひとつ残っている。」
それを聞いて一番驚いたのは《ザイカ》だった。
ザイカはユンファに言い寄ったが、黙殺された。
「あなたが、わが国に行く理由はありますよ。」
ホッフロがユンファの目を見ながら言った。ホッフロの言い方や考え方が、ユンファは気に入らなかったが、ユンファがエンヴィロントに出向く十分な理由をホッフロが述べた。
「女王は、《紫の力》の秘密を知っています。もちろんあなた以上にね。」
「ということで、私達はエンヴィロントに向かうわ、いいわね《エクリド》」
ベッドで横になっている大男に、ユンファは問いかけた。
「好きにしな。これはもう、お前さんの船だ。」
包帯で体中を巻かれた大男は、ベッドで横になりながらユンファに答えた。
エクリドが目を覚ましたのだ。彼の回復力には、船員全員が驚かされた。
「ありがと、エクリド」
ユンファは礼を述べた。隣にはテンザがいて、新しい包帯を持っていた。さらに隣にザイカがいた。彼はお湯の張ってある桶を持っていた。
包帯を取り替えられているエクリドに、ユンファは本題を繰り出した。船内に現れた《偽者/Fake》のことである。
「船員はみんな疑心暗鬼。誰もが疑いあって、信頼関係を築けない状態よ。」
「偽者は見つからないのか?」
「本当にそっくりに化けるのよ。本物よりも本物っぽいわ。私さえ騙されたのよ。」
「それは、驚きだ」
エクリドは白い歯を見せて笑った。が、腹部の傷口に響いたのか、直ぐに険しい顔になった。
そしてエクリドは、ユンファの言わんとしている事を理解した。
「で、俺を疑っている、ということかな?」
「ビンゴ。悪いけど、簡単な質問をさせてもらうわね」
ユンファはエクリドに質問をし始めた。先ずは彼の名前、出身国から、好きな食べ物、趣味などなど。
どれも、本人なら簡単に答えられるものである。
エクリドは淡々と、しかししっかりと答えていった。テンザの手伝いをしていたザイカは、エクリドの中にある、知らない一面を見れて嬉しかった。
包帯を取り替え終えたとき、ユンファは最後の《尋問》をした。
「私と最初に会った時のことを、具体的に説明できる?」
「……」
エクリドの動きが止まった。ザイカの心臓が高鳴った。先程まで明瞭に答えていたエクリドが口篭ったのだ。
エクリドの視線はザイカを見ていた。ザイカもそれに気づいていた。
「説明できるが、ね。」
エクリドが口を開いた。
「『ここで説明したくない』。では、回答にならないか?」
ユンファの口が緩んだ。笑ったのだ。
「十分よ、エクリド。私は、あなたを本物と認識したわ。」
「ユンファ船長、先程のエクリドさんの回答、アレでよかったのですか?」
ザイカが病室の外でユンファに問いただした。
「ええ、そうよ」
そういうとユンファは自室に向かって歩き出した。ユンファはザイカの質問の回答を、彼には聞こえない声で囁いた。
「プライドの高い彼なら、性格上、絶対『あのこと』は、部下の前では口にしないもの。」
男は鏡の中に話しかけていた。
「ばれた、ということですか?」
「ええ。でも、見つかっていません」
矛盾するような回答をされ、男は理解できなかった。
「ばれましたが、見つかってません。まだ騙せています。」
ほう、と男が顎に手をやった。感心しているのだ。
「流石、変幻のエキスパートですね」
「ありがとうございます」
鏡の中の相手は、今乗っている船が《エンヴィロント》に向かっている事を伝えた。
「すこし、予定と違っていますねえ」
男が困ったようなそぶりを見せたが、実際男は困ってなどいない。自分の力では入れなかった《エンヴィロント》に、部下の1人が入れるのだ。これは今まで以上のチャンスである。
「そのまま、船の中に溶け込んでいてくださいね。」
「ええ、判りました。」
通信は途絶えた。男は彼の変幻能力をかっている。変幻相手の『趣味』や『クセ』までコピーできるのだから。
男は、海賊の事は彼に任せ、自分は《ラスロウグラナ》の《白の審問所》前に来ていた。
「私のこと、入れてもらえるでしょうか」
男は、審問所の正面門へ、堂々と向かっていった。
《ホッフロ》は頭を抱えた。額には汗がにじんでいた。《翠の女王》から外交を任されたが、外の世界がここまで混沌としていたとは考えていなかった。
「ぼ、ボクのこと、知りませんか!?」
《ザイカ》は、《桃源郷/FairyLand》から来たエルフに問いかけた。しかし《ホッフロ》は彼を無視した。女王の命令以外のことには興味は無い。
「どういう意味だ?」
代わりに《リト=ハク》がザイカに聞いた。
ザイカは一瞬、美しいエルフの女戦士に見惚れてしまった。
「あ、あの」
「彼の名は《ザイカ》。記憶喪失らしいの。私が《エウルべ海》で拾ったのよ」
口篭ったザイカの代わりにユンファが回答した。
《エウルべ海》は、《エンヴィロント》と《ノウルオール》の間にある海の名前である。エウルベ海は比較的穏やかな潮の流れであるが、その周囲の潮流は複雑なため、ノウルオールから直接、エンヴィロントへ行くのは難しい。
リト=ハクは、ザイカのことを知らなかった。その場にいたほかのエルフも、彼のことを知らなかった。
落ち込む《記憶喪失のエルフ》に、リト=ハクはひとつの希望を与えた。
「《緑の桃源郷》には数多くの《記憶》が眠る。その中に君の事も残されているかもしれない」
「彼は《ツエイド》。エルフ1の地図作りだ。彼が海図を描いている。」
ホッフロがもう1人のエルフを紹介した。後ろにいたエルフがフードを脱ぎ挨拶をした。老けても無く、若くも無い。
ツエイドは早速海図を広げ、エンヴィロントへの道程を説明し始めた。
「現在この海域には、季節潮がこのように流れています。我々の国には、この潮流に乗らないと……」
「ちょっとストップ」
ユンファが遮った。
「私は、一言も『そこに行く』とは言っていない。私が行く必要が無いしね。それにまだ、大きな問題がひとつ残っている。」
それを聞いて一番驚いたのは《ザイカ》だった。
ザイカはユンファに言い寄ったが、黙殺された。
「あなたが、わが国に行く理由はありますよ。」
ホッフロがユンファの目を見ながら言った。ホッフロの言い方や考え方が、ユンファは気に入らなかったが、ユンファがエンヴィロントに出向く十分な理由をホッフロが述べた。
「女王は、《紫の力》の秘密を知っています。もちろんあなた以上にね。」
「ということで、私達はエンヴィロントに向かうわ、いいわね《エクリド》」
ベッドで横になっている大男に、ユンファは問いかけた。
「好きにしな。これはもう、お前さんの船だ。」
包帯で体中を巻かれた大男は、ベッドで横になりながらユンファに答えた。
エクリドが目を覚ましたのだ。彼の回復力には、船員全員が驚かされた。
「ありがと、エクリド」
ユンファは礼を述べた。隣にはテンザがいて、新しい包帯を持っていた。さらに隣にザイカがいた。彼はお湯の張ってある桶を持っていた。
包帯を取り替えられているエクリドに、ユンファは本題を繰り出した。船内に現れた《偽者/Fake》のことである。
「船員はみんな疑心暗鬼。誰もが疑いあって、信頼関係を築けない状態よ。」
「偽者は見つからないのか?」
「本当にそっくりに化けるのよ。本物よりも本物っぽいわ。私さえ騙されたのよ。」
「それは、驚きだ」
エクリドは白い歯を見せて笑った。が、腹部の傷口に響いたのか、直ぐに険しい顔になった。
そしてエクリドは、ユンファの言わんとしている事を理解した。
「で、俺を疑っている、ということかな?」
「ビンゴ。悪いけど、簡単な質問をさせてもらうわね」
ユンファはエクリドに質問をし始めた。先ずは彼の名前、出身国から、好きな食べ物、趣味などなど。
どれも、本人なら簡単に答えられるものである。
エクリドは淡々と、しかししっかりと答えていった。テンザの手伝いをしていたザイカは、エクリドの中にある、知らない一面を見れて嬉しかった。
包帯を取り替え終えたとき、ユンファは最後の《尋問》をした。
「私と最初に会った時のことを、具体的に説明できる?」
「……」
エクリドの動きが止まった。ザイカの心臓が高鳴った。先程まで明瞭に答えていたエクリドが口篭ったのだ。
エクリドの視線はザイカを見ていた。ザイカもそれに気づいていた。
「説明できるが、ね。」
エクリドが口を開いた。
「『ここで説明したくない』。では、回答にならないか?」
ユンファの口が緩んだ。笑ったのだ。
「十分よ、エクリド。私は、あなたを本物と認識したわ。」
「ユンファ船長、先程のエクリドさんの回答、アレでよかったのですか?」
ザイカが病室の外でユンファに問いただした。
「ええ、そうよ」
そういうとユンファは自室に向かって歩き出した。ユンファはザイカの質問の回答を、彼には聞こえない声で囁いた。
「プライドの高い彼なら、性格上、絶対『あのこと』は、部下の前では口にしないもの。」
男は鏡の中に話しかけていた。
「ばれた、ということですか?」
「ええ。でも、見つかっていません」
矛盾するような回答をされ、男は理解できなかった。
「ばれましたが、見つかってません。まだ騙せています。」
ほう、と男が顎に手をやった。感心しているのだ。
「流石、変幻のエキスパートですね」
「ありがとうございます」
鏡の中の相手は、今乗っている船が《エンヴィロント》に向かっている事を伝えた。
「すこし、予定と違っていますねえ」
男が困ったようなそぶりを見せたが、実際男は困ってなどいない。自分の力では入れなかった《エンヴィロント》に、部下の1人が入れるのだ。これは今まで以上のチャンスである。
「そのまま、船の中に溶け込んでいてくださいね。」
「ええ、判りました。」
通信は途絶えた。男は彼の変幻能力をかっている。変幻相手の『趣味』や『クセ』までコピーできるのだから。
男は、海賊の事は彼に任せ、自分は《ラスロウグラナ》の《白の審問所》前に来ていた。
「私のこと、入れてもらえるでしょうか」
男は、審問所の正面門へ、堂々と向かっていった。
コメント