GatherFriends〜MTG青春日記〜第5幕
2005年7月18日 小説「ここね」
結花は、大通りから外れた、細い路地のなかにひっそりと建つカードゲームショップ前に立っていた。
外見は幾分朽ちていて、お世辞にも綺麗な店とはいえない。
「……オデッセイのポスターが張ってある……。」
しかも、【新製品】のポップが付いたままである。ここだけ時間が止まった空間のような間隔さえ覚えてしまった。
「さて、では中に……。」
「小金井、結花、さんですね」
裏から突然声をかけられた。結花は驚き、後ろを振り向いた。
「はじめまして。ボクの名前は『茅ヶ崎しのぶ』。」
青い野球帽を深く被り、黒のパーカーに紺のジーンズ姿の「茅ヶ崎しのぶ」と名乗った人物は、いつの間にか結花の直ぐ後ろに立っていた。
しのぶは右手を差し出していた。握手を求めているのだろう。
「はあ、はじめまして。」
結花は反射的にしのぶの手を握ろうとしたが、瞬間、晶子の言葉を思い出した。
『……茅ヶ崎……しのぶに、注意してください……』
「……!!」
パンッ!と小気味良い音とともに、結花はしのぶの手を、掌で弾いていた。
いたっ!と、しのぶが悲鳴をあげた。しかしそんなことはお構いなく、結花はしのぶをにらみつけた。
「私……今日は機嫌が悪いの。単刀直入に聞くわね。」
しのぶは赤くなった自分の手を見ていた。全く聞く耳を持たない、といった感じだった。
「……聞いてるの!」
「聞いてるよう。でも……答えないよ。」
しのぶはあっけらかんと答えた。が、さらにしのぶは続けた。
「けど、『コレ』の勝敗によっては、話してもいいよん。」
しのぶのズボンのポケットからカードの束が出てきた。紛れも無く「MTG」のカードだった。
黄色い看板のファミレス。
ウェイトレスが『可愛い』と評判のこの店に、高校のブレザー姿の男が二人、ボックス席で対面に座っていた。
1人は、『関内辰之助』。そしてもう1人は、
「…と、『地中海風リゾット』と、あ、あと食後に『マンゴープリン』ね。」
「……は、はい。」
ウェイトレスが注文を取り終え、店の奥に入っていく。
「いやあやっぱこの店、女の子が可愛いなあ!もう!」
「……そんなことを、声を出して言うな……。」
関内が頭を抱えた。
関内の前には、『町田速人』が座っていた。
「……で、関内。俺をこんなところに呼び出してどうしたんだ?」
「2つ聞きたいことがある。ひとつは会長の目的。」
かちゃり、と、町田が持つお冷の氷がなった。
「なるほどね、でも俺は、ほとんど知らないぜ。あれは半分は、俺の興味本位でやったことだ。会長の命令……「香田晶子と小金井結花を倒せ」っていうのはまあ、『ついで』だ。前々から、小金井のデッキとは闘いたいと思っていたからな。」
そういうと町田は、コップの水を飲み干した。
「会長のことなら、『大木』に聞けばいいじゃねえか。」
「大木は、ガードが固すぎる。」
ふうん、と町田は呟いた。どうやら町田は、遠まわしに『お前ならぺらぺらと喋ってくれると思ってた』といわれていることに気づいていないらしい。
「……お待たせしました、アイスコーヒーになります。」
ウェイトレスがアイスコーヒーを運んできた。関内が注文したものだ。
「じゃあ、もうひとつの質問……『茅ヶ崎しのぶ』について」
がたん!
危うくウェイトレスが、コーヒーを倒しそうになった。
「し、失礼しました!」
一礼して、ウェイトレスが去ろうとしたが、それを関内が引き止めた。
「まてよ、聞いていけ『香田』。」
ファミレスの制服に身を包んだ『香田晶子』は、関内の一言に動きを止めた。
「……ば、バイト中ですから。」
「追加注文だ。その間だけ、町田の話を聞いていけ。」
香田は暫く硬直したが、しかし覚悟を決めたのか、注文取りの伝票を取り出した。
「さて町田、茅ヶ崎しのぶについてはどうかな?」
ぼりぼりと氷をかじりながら町田は答え始めた。
「『彼女』は強いぞ。なんたって記憶力が半端じゃない。相手のデッキなんて直ぐに覚えられる。多分、結花のハイランダーのデータも彼女に届いているだろうな。」
それに、と町田は話を続けた。
「彼女は『忍者デッキ』だ。その中にはハンデスも多くある。分が悪すぎさ、結花のデッキではね」
町田の口が歪む。笑っているのだ。
香田は、関内の追加注文を受けながら町田の話を聞いていた。それに実際に茅ヶ崎と戦った自分だからこそ良くわかる。結花のハイランダーでは、茅ヶ崎しのぶには勝てないだろう。
だが、関内1人はその話を聞いて安心していた。そして、くすくすと笑い始めた。
「……先輩?」
晶子が、引いた。素直に引いた。
町田も、関内の行動に恐怖さえ覚えた。
「これ、な〜んだ?」
そういうと関内は、かばんから青いデッキケースを持ち出した。香田も町田もそのケースに見覚えがあった。小金井結花の【ハイランダー】が入っているケースだ。
「彼女がいま持っているデッキはハイランダーじゃない。俺がチューンしたデッキさ。最悪の、ね。」
場には《魂の裏切りの夜》。忍術するにも、肝心のクリーチャーが場に出ない。だせても、瞬間、除去されるのだ。
結花の墓地には、
・《残響する衰微》
・《忌まわしい笑い》
・《崩老卑の囁き》
・《血のやりとり》
など、大量の除去が置かれていた。文字通りネズミ1匹さえ、この場に残れない。
「……なんで、あのデッキじゃないんよ!」
帽子を脱ぎ、肩にかかる三つ編みが印象的な彼女『茅ヶ崎しのぶ』は驚きを隠せなかった。
しかし、茅ヶ崎はかなり押している。茅ヶ崎の場は、
・カウンターが2つ乗った《十手》付きの《騒がしいネズミ》
・《泥棒カササギ》
・ライフは『6』
・自分の手札には《鬼の下僕、墨目》が2枚。
結花の状況は、
・《夜の星、黒瘴》《師範の占い独楽》をコントロール
・ライフは『3』。
・手札は4枚
(…墨目が通れば、勝ち!)
茅ヶ崎は、全クリーチャーを攻撃させた。結花は《ネズミ》をブロック。
「忍術! カササギを《墨目》に!」
「墨目対象、《不快な群れ》」
結花の土地がタップされる。茅ヶ崎は、ほとんどの土地がタップされたのを確認して、さらに忍術を続けた。
「では、さらに《墨目》を手札に戻し、もう一枚の《墨目》!」
勝った!かに思われたが、結花は手札に持っていた《魂の裏切りの夜》を墓地の横に投げた。
「ピッチスペルよ。《不快な群れ》」
「な!」
墨目が墓地に置かれた。
「そんな!もう一枚持っていただなんて!」
「それはあなたの《墨目》とて同じことよ。おあいこよ。」
しばしの沈黙のあと、茅ヶ崎は《十手》のカウンターを除き、《黒瘴》を墓地に置いた。《黒瘴》を除去できたのだ、とりあえずは大丈夫だろう。
「そうかしら、ね。」
結花は笑った。《黒瘴》を除去できた茅ヶ崎に対して、あまりに酷なカードが、結花の手札にあった。
《夜の星、黒瘴/Kokusho, the Evening Star(CHK)》
「それも2体目なん!?」
「そういうこと。あなた、もう勝ち目はなさそうよ、どうするの?」
結花はまた笑った。今度は確実に、悪意の有る笑みだった。普段の結花からは想像も付かない、殺戮を楽しんでいるものの笑い方だった。
「さて、私はあと何体、殺れるかしらね」
結花は、大通りから外れた、細い路地のなかにひっそりと建つカードゲームショップ前に立っていた。
外見は幾分朽ちていて、お世辞にも綺麗な店とはいえない。
「……オデッセイのポスターが張ってある……。」
しかも、【新製品】のポップが付いたままである。ここだけ時間が止まった空間のような間隔さえ覚えてしまった。
「さて、では中に……。」
「小金井、結花、さんですね」
裏から突然声をかけられた。結花は驚き、後ろを振り向いた。
「はじめまして。ボクの名前は『茅ヶ崎しのぶ』。」
青い野球帽を深く被り、黒のパーカーに紺のジーンズ姿の「茅ヶ崎しのぶ」と名乗った人物は、いつの間にか結花の直ぐ後ろに立っていた。
しのぶは右手を差し出していた。握手を求めているのだろう。
「はあ、はじめまして。」
結花は反射的にしのぶの手を握ろうとしたが、瞬間、晶子の言葉を思い出した。
『……茅ヶ崎……しのぶに、注意してください……』
「……!!」
パンッ!と小気味良い音とともに、結花はしのぶの手を、掌で弾いていた。
いたっ!と、しのぶが悲鳴をあげた。しかしそんなことはお構いなく、結花はしのぶをにらみつけた。
「私……今日は機嫌が悪いの。単刀直入に聞くわね。」
しのぶは赤くなった自分の手を見ていた。全く聞く耳を持たない、といった感じだった。
「……聞いてるの!」
「聞いてるよう。でも……答えないよ。」
しのぶはあっけらかんと答えた。が、さらにしのぶは続けた。
「けど、『コレ』の勝敗によっては、話してもいいよん。」
しのぶのズボンのポケットからカードの束が出てきた。紛れも無く「MTG」のカードだった。
黄色い看板のファミレス。
ウェイトレスが『可愛い』と評判のこの店に、高校のブレザー姿の男が二人、ボックス席で対面に座っていた。
1人は、『関内辰之助』。そしてもう1人は、
「…と、『地中海風リゾット』と、あ、あと食後に『マンゴープリン』ね。」
「……は、はい。」
ウェイトレスが注文を取り終え、店の奥に入っていく。
「いやあやっぱこの店、女の子が可愛いなあ!もう!」
「……そんなことを、声を出して言うな……。」
関内が頭を抱えた。
関内の前には、『町田速人』が座っていた。
「……で、関内。俺をこんなところに呼び出してどうしたんだ?」
「2つ聞きたいことがある。ひとつは会長の目的。」
かちゃり、と、町田が持つお冷の氷がなった。
「なるほどね、でも俺は、ほとんど知らないぜ。あれは半分は、俺の興味本位でやったことだ。会長の命令……「香田晶子と小金井結花を倒せ」っていうのはまあ、『ついで』だ。前々から、小金井のデッキとは闘いたいと思っていたからな。」
そういうと町田は、コップの水を飲み干した。
「会長のことなら、『大木』に聞けばいいじゃねえか。」
「大木は、ガードが固すぎる。」
ふうん、と町田は呟いた。どうやら町田は、遠まわしに『お前ならぺらぺらと喋ってくれると思ってた』といわれていることに気づいていないらしい。
「……お待たせしました、アイスコーヒーになります。」
ウェイトレスがアイスコーヒーを運んできた。関内が注文したものだ。
「じゃあ、もうひとつの質問……『茅ヶ崎しのぶ』について」
がたん!
危うくウェイトレスが、コーヒーを倒しそうになった。
「し、失礼しました!」
一礼して、ウェイトレスが去ろうとしたが、それを関内が引き止めた。
「まてよ、聞いていけ『香田』。」
ファミレスの制服に身を包んだ『香田晶子』は、関内の一言に動きを止めた。
「……ば、バイト中ですから。」
「追加注文だ。その間だけ、町田の話を聞いていけ。」
香田は暫く硬直したが、しかし覚悟を決めたのか、注文取りの伝票を取り出した。
「さて町田、茅ヶ崎しのぶについてはどうかな?」
ぼりぼりと氷をかじりながら町田は答え始めた。
「『彼女』は強いぞ。なんたって記憶力が半端じゃない。相手のデッキなんて直ぐに覚えられる。多分、結花のハイランダーのデータも彼女に届いているだろうな。」
それに、と町田は話を続けた。
「彼女は『忍者デッキ』だ。その中にはハンデスも多くある。分が悪すぎさ、結花のデッキではね」
町田の口が歪む。笑っているのだ。
香田は、関内の追加注文を受けながら町田の話を聞いていた。それに実際に茅ヶ崎と戦った自分だからこそ良くわかる。結花のハイランダーでは、茅ヶ崎しのぶには勝てないだろう。
だが、関内1人はその話を聞いて安心していた。そして、くすくすと笑い始めた。
「……先輩?」
晶子が、引いた。素直に引いた。
町田も、関内の行動に恐怖さえ覚えた。
「これ、な〜んだ?」
そういうと関内は、かばんから青いデッキケースを持ち出した。香田も町田もそのケースに見覚えがあった。小金井結花の【ハイランダー】が入っているケースだ。
「彼女がいま持っているデッキはハイランダーじゃない。俺がチューンしたデッキさ。最悪の、ね。」
場には《魂の裏切りの夜》。忍術するにも、肝心のクリーチャーが場に出ない。だせても、瞬間、除去されるのだ。
結花の墓地には、
・《残響する衰微》
・《忌まわしい笑い》
・《崩老卑の囁き》
・《血のやりとり》
など、大量の除去が置かれていた。文字通りネズミ1匹さえ、この場に残れない。
「……なんで、あのデッキじゃないんよ!」
帽子を脱ぎ、肩にかかる三つ編みが印象的な彼女『茅ヶ崎しのぶ』は驚きを隠せなかった。
しかし、茅ヶ崎はかなり押している。茅ヶ崎の場は、
・カウンターが2つ乗った《十手》付きの《騒がしいネズミ》
・《泥棒カササギ》
・ライフは『6』
・自分の手札には《鬼の下僕、墨目》が2枚。
結花の状況は、
・《夜の星、黒瘴》《師範の占い独楽》をコントロール
・ライフは『3』。
・手札は4枚
(…墨目が通れば、勝ち!)
茅ヶ崎は、全クリーチャーを攻撃させた。結花は《ネズミ》をブロック。
「忍術! カササギを《墨目》に!」
「墨目対象、《不快な群れ》」
結花の土地がタップされる。茅ヶ崎は、ほとんどの土地がタップされたのを確認して、さらに忍術を続けた。
「では、さらに《墨目》を手札に戻し、もう一枚の《墨目》!」
勝った!かに思われたが、結花は手札に持っていた《魂の裏切りの夜》を墓地の横に投げた。
「ピッチスペルよ。《不快な群れ》」
「な!」
墨目が墓地に置かれた。
「そんな!もう一枚持っていただなんて!」
「それはあなたの《墨目》とて同じことよ。おあいこよ。」
しばしの沈黙のあと、茅ヶ崎は《十手》のカウンターを除き、《黒瘴》を墓地に置いた。《黒瘴》を除去できたのだ、とりあえずは大丈夫だろう。
「そうかしら、ね。」
結花は笑った。《黒瘴》を除去できた茅ヶ崎に対して、あまりに酷なカードが、結花の手札にあった。
《夜の星、黒瘴/Kokusho, the Evening Star(CHK)》
「それも2体目なん!?」
「そういうこと。あなた、もう勝ち目はなさそうよ、どうするの?」
結花はまた笑った。今度は確実に、悪意の有る笑みだった。普段の結花からは想像も付かない、殺戮を楽しんでいるものの笑い方だった。
「さて、私はあと何体、殺れるかしらね」
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