4-6《死の爪、アルナード》
2005年8月4日 ストーリー 偽者騒動はまだ終わっていなかった。犯人が見つからないのだ。
そのため、ディーピッシュの船員の、全員が疑心暗鬼になってしまっていた。他が他を疑うことが船内で繰り返され、誰もが精神的に参っていた。
しかしその状態でも、ユンファは船を出航させた。理由はエルフ達の言い分にあった。
エルフの地図作り《ツエイド》が言う潮流を使えば、《エリス港》からエンヴィロントに直接いけるという。しかしこの潮流、一時期しか流れないという。そのチャンスを逃すと、次は3月ほど待たなくてはならない。
ユンファは考えたが、結局《紫の力》への探究心が勝り、出航を決意した。
エリス港を出航し、3回目の朝を迎えたころ、突然に潮の流れが変わった。コレがエルフ達の言う潮流なのだろう。前方のエルフ達の船が、文字通り潮流に流されていったのが肉眼でも確認できた。
「あとは待つだけだ。この潮が、我々を《エンヴィロント》に連れて行く」
リト=ハクが述べた。彼女は《ディーピッシュ》に乗っている。リト=ハクがこちらの船に乗っているのには訳があった。《ユンファ》たちの監視である。
ユンファはただただ、自分が知らなかった潮流に感心していた。
「どの本にも、どの海図にも、この潮は書かれていないわ。実際に体感して、私もやっと真実だとわかったわ」
緊迫した船内で、《ザイカ》は倉庫の整理をしていた。遠目の力が必要ない時は、ザイカは雑用をこなす事で船員としての役目を果たしている。
整理を終え、倉庫から出てきたザイカを待っていたのは、ブロンドの髪の女の子だった。
「ザイカ、こんにちは」
「あ、えーと、ノウンクンだっけ?」
ハイ!と手を挙げ《ノウンクン》が返事した。実に微笑ましい。
「ザイカ、私、今日はあなたに会わせたい人がいるの」
そういうとノウンクンはザイカの腕を取り、いきなり引っ張り出した。突然のことでザイカは驚き、つい勢いで腕を振り払ってしまった。
「あ、ご、ごめ……」
ザイカは咄嗟に謝罪の言葉が出たが、しかし、既に対象はいなくなっていた。目の前にいた彼女は、もう居なかった。
「…?」
何処に行ったのだろう。ザイカは不思議に思いながらも、倉庫に忘れ物をしたことを思い出し、倉庫に戻った。
倉庫の中には明かりはない。そのためランプを灯しての作業と成るが、そのランプが見当たらない。
「おかしいなあ」
倉庫の奥にもランプがあったことを思い出し、手探りで倉庫奥に行こうとしたが、
「……こんなに広かったっけ……?」
先程と勝手が違う。壁の手触りも違っている。丸い金属が壁に埋め込まれているようだ。しかも仄かに暖かい。
ふとザイカは、天井付近に赤い光を見つけた。
しかしそれは、血の色に似ていた。
そして、その赤い色は唐突に動き出した。こちらに近づいている。
次第に暗闇に目が慣れたこともあり、ザイカは近づいてくるものが、目であることがわかった。そして直ぐにそれが何の目であるかも理解した。
ドラゴンだった。
赤い瞳。黒光りする鱗。白い牙も見えた。
ザイカが壁だと思って触っていたのは、そのドラゴンの皮膚だったのだ。
と、案外冷静に状況を分析していたザイカであったが、目と鼻の先にドラゴンの顔が来た瞬間、叫び声を上げた。情け無いと思っていたが。
「……っと、なにやっているのよ。」
後ろに何故かユンファがいた。叫んでいるところを見られた格好だ。
「せせせせ、船長!!」
ザイカは訳が判らなかった。ドラゴンのことも、ユンファがここにいることも。
ユンファに気が付いたのか、ドラゴンが顔をユンファに向けた。そして突然、そのドラゴンは人語を喋りだした。
「ちょいと、からかっていただけだ」
「私の大切な仲間だからね、《アルナード》。」
「判っている。」
ユンファもユンファで、ドラゴンと対等に会話している。一体彼らは何なんだろう。改めてザイカは思った。
「で、ザイカ。」
ユンファはドラゴン……《アルナード》との会話を中断し、ザイカに視線を向けた。
「あなた、どうやってここに入ったの? ここは私が《鍵》をかけたのに」
ユンファはザイカに疑惑の目を向けた。ザイカが偽者ではと思っているらしい。
それに気づいたザイカは必死に弁解しようとした。
「こ、ここは、あの、《ノウンクン》って子がいて、ええと。」
ザイカの《ノウンクン》の言葉に、その場にいたユンファとアルナードは驚きの表情を見せた。
「おいお前、ノウンクンにあったのか?」
アルナードはザイカに顔を近づけた。ザイカなどアルナードの口の大きさから、一飲みだろう。
ザイカは、喋るドラゴンにいまだおびえながら、状況を説明した。
物言わず聞いていた二人(1人と1体)であったが、一通りザイカの話をきいたあとは、素直に納得していた。
「へえ、あの子に会ったんだ。あの子なら、ここに導けるわね」
「ふん、あのガキが。余計なことを」
アルナードと呼ばれたドラゴンが、またザイカに顔を近づけた。
「確かに俺は、お前に興味がある、とは言っていた。ただそれだけなのにな。」
その後、そのドラゴンは首を上げ、自分の胴体に乗せた。丸くなり、休んでいる体制だ。白鳥が寝る体制と同じだった。
「まあ、ガキに出会えるって事は、少なくとも《ユンファ》と同等ってことだ。こいつは面白い」
そういうとアルナードは、目を瞑ってしまった。寝ようとしているのだ。
「アル、眠るのか?」
「ああ、俺みたいな年寄りには、長話は疲れる。」
そういうとアルナードは喋らなくなった。眠ったようである。
「さて、と。」
ユンファはザイカの腕をつかみ、部屋からでた。
そこには、部屋の扉は無かった。あるのは壁だった。
「私が、壁と別の部屋を繋いでいるの。だから、普通はあかないはずなんだけど、ね。」
しかし、おそらくその扉を開けたのは《ノウンクン》だ。
彼女は一体何者なのか。ザイカは思い切ってユンファに尋ねてみた。が、ユンファの回答はこうだった。
「実は、私も良く判らないのよ。でも、彼。不思議と悪い奴とは思えないのよね。神出鬼没だけど、幽霊かしら。」
ザイカはまだ、いろいろとユンファに聞きたいことがあった。先程のドラゴン《アルナード》のことも。また、ユンファがノウンクンのことを《彼》と呼んだことに関しても。
しかし、ユンファは渋面だった。真剣に何かを考えているようで、近寄りがたい雰囲気でもあった。
そしてユンファはザイカのほうを向いた。渋面ではない。むしろ、好奇心の塊のような顔だった。もっと、もっと知りたい。
「ザイカ、あなたどうして、ノウンクンと出会えたの? 昔、ナニカしてた? っと言っても、あなた、記憶喪失だったわね。」
ユンファの顔が残念な感情でいっぱいだった、が、現在この船が向かっている先を思い出した瞬間、ユンファは楽しい気分になった。
「……あそこにあなたの手がかりがあれば……。そうね、私があの国にいかなければならなくなった理由が、1つ増えたわ。」
ユンファはそう呟くと、廊下を歩いてどこかに行ってしまった。
「……。」
ザイカは1人立ち尽くしていた。ユンファに聞きたいことが山ほどあったのだが、結局彼女の自己完結で会話が終わってしまったのだ。
しかし、この会話によって、さらにザイカの胸の内に不安の種を蒔いてしまったことになる。
「本当に……ボクはなんなんだ? それに、本当に手がかりがあるのだろうか、あそこに」
突然襲われた不安感。今はただ、コレが気のせいであることを願うばかりであった。
そのため、ディーピッシュの船員の、全員が疑心暗鬼になってしまっていた。他が他を疑うことが船内で繰り返され、誰もが精神的に参っていた。
しかしその状態でも、ユンファは船を出航させた。理由はエルフ達の言い分にあった。
エルフの地図作り《ツエイド》が言う潮流を使えば、《エリス港》からエンヴィロントに直接いけるという。しかしこの潮流、一時期しか流れないという。そのチャンスを逃すと、次は3月ほど待たなくてはならない。
ユンファは考えたが、結局《紫の力》への探究心が勝り、出航を決意した。
エリス港を出航し、3回目の朝を迎えたころ、突然に潮の流れが変わった。コレがエルフ達の言う潮流なのだろう。前方のエルフ達の船が、文字通り潮流に流されていったのが肉眼でも確認できた。
「あとは待つだけだ。この潮が、我々を《エンヴィロント》に連れて行く」
リト=ハクが述べた。彼女は《ディーピッシュ》に乗っている。リト=ハクがこちらの船に乗っているのには訳があった。《ユンファ》たちの監視である。
ユンファはただただ、自分が知らなかった潮流に感心していた。
「どの本にも、どの海図にも、この潮は書かれていないわ。実際に体感して、私もやっと真実だとわかったわ」
緊迫した船内で、《ザイカ》は倉庫の整理をしていた。遠目の力が必要ない時は、ザイカは雑用をこなす事で船員としての役目を果たしている。
整理を終え、倉庫から出てきたザイカを待っていたのは、ブロンドの髪の女の子だった。
「ザイカ、こんにちは」
「あ、えーと、ノウンクンだっけ?」
ハイ!と手を挙げ《ノウンクン》が返事した。実に微笑ましい。
「ザイカ、私、今日はあなたに会わせたい人がいるの」
そういうとノウンクンはザイカの腕を取り、いきなり引っ張り出した。突然のことでザイカは驚き、つい勢いで腕を振り払ってしまった。
「あ、ご、ごめ……」
ザイカは咄嗟に謝罪の言葉が出たが、しかし、既に対象はいなくなっていた。目の前にいた彼女は、もう居なかった。
「…?」
何処に行ったのだろう。ザイカは不思議に思いながらも、倉庫に忘れ物をしたことを思い出し、倉庫に戻った。
倉庫の中には明かりはない。そのためランプを灯しての作業と成るが、そのランプが見当たらない。
「おかしいなあ」
倉庫の奥にもランプがあったことを思い出し、手探りで倉庫奥に行こうとしたが、
「……こんなに広かったっけ……?」
先程と勝手が違う。壁の手触りも違っている。丸い金属が壁に埋め込まれているようだ。しかも仄かに暖かい。
ふとザイカは、天井付近に赤い光を見つけた。
しかしそれは、血の色に似ていた。
そして、その赤い色は唐突に動き出した。こちらに近づいている。
次第に暗闇に目が慣れたこともあり、ザイカは近づいてくるものが、目であることがわかった。そして直ぐにそれが何の目であるかも理解した。
ドラゴンだった。
赤い瞳。黒光りする鱗。白い牙も見えた。
ザイカが壁だと思って触っていたのは、そのドラゴンの皮膚だったのだ。
と、案外冷静に状況を分析していたザイカであったが、目と鼻の先にドラゴンの顔が来た瞬間、叫び声を上げた。情け無いと思っていたが。
「……っと、なにやっているのよ。」
後ろに何故かユンファがいた。叫んでいるところを見られた格好だ。
「せせせせ、船長!!」
ザイカは訳が判らなかった。ドラゴンのことも、ユンファがここにいることも。
ユンファに気が付いたのか、ドラゴンが顔をユンファに向けた。そして突然、そのドラゴンは人語を喋りだした。
「ちょいと、からかっていただけだ」
「私の大切な仲間だからね、《アルナード》。」
「判っている。」
ユンファもユンファで、ドラゴンと対等に会話している。一体彼らは何なんだろう。改めてザイカは思った。
「で、ザイカ。」
ユンファはドラゴン……《アルナード》との会話を中断し、ザイカに視線を向けた。
「あなた、どうやってここに入ったの? ここは私が《鍵》をかけたのに」
ユンファはザイカに疑惑の目を向けた。ザイカが偽者ではと思っているらしい。
それに気づいたザイカは必死に弁解しようとした。
「こ、ここは、あの、《ノウンクン》って子がいて、ええと。」
ザイカの《ノウンクン》の言葉に、その場にいたユンファとアルナードは驚きの表情を見せた。
「おいお前、ノウンクンにあったのか?」
アルナードはザイカに顔を近づけた。ザイカなどアルナードの口の大きさから、一飲みだろう。
ザイカは、喋るドラゴンにいまだおびえながら、状況を説明した。
物言わず聞いていた二人(1人と1体)であったが、一通りザイカの話をきいたあとは、素直に納得していた。
「へえ、あの子に会ったんだ。あの子なら、ここに導けるわね」
「ふん、あのガキが。余計なことを」
アルナードと呼ばれたドラゴンが、またザイカに顔を近づけた。
「確かに俺は、お前に興味がある、とは言っていた。ただそれだけなのにな。」
その後、そのドラゴンは首を上げ、自分の胴体に乗せた。丸くなり、休んでいる体制だ。白鳥が寝る体制と同じだった。
「まあ、ガキに出会えるって事は、少なくとも《ユンファ》と同等ってことだ。こいつは面白い」
そういうとアルナードは、目を瞑ってしまった。寝ようとしているのだ。
「アル、眠るのか?」
「ああ、俺みたいな年寄りには、長話は疲れる。」
そういうとアルナードは喋らなくなった。眠ったようである。
「さて、と。」
ユンファはザイカの腕をつかみ、部屋からでた。
そこには、部屋の扉は無かった。あるのは壁だった。
「私が、壁と別の部屋を繋いでいるの。だから、普通はあかないはずなんだけど、ね。」
しかし、おそらくその扉を開けたのは《ノウンクン》だ。
彼女は一体何者なのか。ザイカは思い切ってユンファに尋ねてみた。が、ユンファの回答はこうだった。
「実は、私も良く判らないのよ。でも、彼。不思議と悪い奴とは思えないのよね。神出鬼没だけど、幽霊かしら。」
ザイカはまだ、いろいろとユンファに聞きたいことがあった。先程のドラゴン《アルナード》のことも。また、ユンファがノウンクンのことを《彼》と呼んだことに関しても。
しかし、ユンファは渋面だった。真剣に何かを考えているようで、近寄りがたい雰囲気でもあった。
そしてユンファはザイカのほうを向いた。渋面ではない。むしろ、好奇心の塊のような顔だった。もっと、もっと知りたい。
「ザイカ、あなたどうして、ノウンクンと出会えたの? 昔、ナニカしてた? っと言っても、あなた、記憶喪失だったわね。」
ユンファの顔が残念な感情でいっぱいだった、が、現在この船が向かっている先を思い出した瞬間、ユンファは楽しい気分になった。
「……あそこにあなたの手がかりがあれば……。そうね、私があの国にいかなければならなくなった理由が、1つ増えたわ。」
ユンファはそう呟くと、廊下を歩いてどこかに行ってしまった。
「……。」
ザイカは1人立ち尽くしていた。ユンファに聞きたいことが山ほどあったのだが、結局彼女の自己完結で会話が終わってしまったのだ。
しかし、この会話によって、さらにザイカの胸の内に不安の種を蒔いてしまったことになる。
「本当に……ボクはなんなんだ? それに、本当に手がかりがあるのだろうか、あそこに」
突然襲われた不安感。今はただ、コレが気のせいであることを願うばかりであった。
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