歴史の教員が、抑揚の無い声でテキストを読み上げていく。まるで念仏だ。
 あまりに退屈であったため、ノートの端にMTGカードを書き連ねた。9版後のデッキを作成し始めたのだ。
「……。」
 青のカウンターは十分に優良なものが残っている。それに《ヴィダルケンの枷》の存在を考えると、普通に勝つデッキを作成するとなれば、青単コントロールという選択肢もあるだろう。
 しかし、大木はそうしなかった。
 ノートの端に先ず書かれたカードは《ヤヴィマヤの沿岸》だった。
(……この土地が帰ってきたのに……)
 大木は深いため息をついた。
(《抹消》は、もういないの、か。)
 さらにもう一回、ため息をついた。大木はサラサラとカード名を書き連ねる。
・《マナ漏出》
・《卑下》
・《ダークスティールの鋳塊》
・《機械の行進》
 過去、『抹消マーチ』にも入っていたものである。大木は未だに、抹消への未練が断ち切れないでいた。
「……どうしたもんか、な」
 さらにもう一回深いため息をついて、うーんと背伸びをした。
「あ〜あ。もうやってらんねえなあ」
 大木は現行スタンダードに対して不満を洩らしたが、しかし、
「……大木。廊下に立ってろ」
 授業中に発したその言葉は、教師を誤解させるのに十分な効果があった。


…。


「8時半…か。」
 腕時計を見ながら、大木は塾へ向かう道を進んでいた。
 今日は生徒会の仕事の関係で、学校を出たのが8時を過ぎてしまっていた。
「直接、塾に行ったほうが良いな、コレは」
 大木は塾に通っていたのだが、塾の時間の関係上、直接向かわないと間に合わない。
 慣れた手つきで自宅に電話をいれ、あまり通らない道を、塾に向かって歩いていた。

 その道には、ゲームショップがあった。外から中のショーケースが見えるようになっていて、中には新作ゲームのプロモーション映像が流れていた。
「……あ、コレ知ってる。」
 大木はぴたりと足を止めた。
 モニターに映っていたゲームは、いろいろな種類のロボットが版権の枠を越えて闘うというもので、何作も続いているものであった。
「なつかしいなあ。これも、このゲームに出るんだ。」
 映っていたのは、大木が小さい頃夢中になって見ていたロボットアニメのキャラクターであった。
「そうそう、こいつが一番好きだったな」
 そのロボットアニメの主人公ロボではなく、そのライバルロボが画面いっぱいに現れていた。
「こいつ、確か腕のパーツが……。」
 大木の記憶どおり、キャラクターの腕についていたパーツが赤く光り、それが敵に向かって飛んでいった。
「……で、それが、まるで……」
 そこで大木は止まった。テレビ画面では、飛んでいったロボのパーツが、まるで『不死鳥のように』羽ばたき、敵を貫いたのだ。
「……そうか……。《不死鳥》か!!!」
 大木はバックからレポート用紙の束を取り出した。それはサイトからプリントアウトした、『第9版』のカードリストだった。
「……赤……、クリーチャー……。」
 赤のカードリストに目をやる大木。何かを探しているようだ。
「……!! 見つけた……!俺の新パートナー!」
 大木は思わず、カードリストを握り締めていた。しかしそんなことはお構いなく、大木は歓喜の声を上げていた。
「よし! できる! できるぞ! 俺のデッキ!」
 
生徒会 書記 抹消使いの大木。
 今ここで、彼はスタンダードへの復活を宣言した。
 そう、彼は復活したのだ。まるで、何度でも転生を繰り返す、赤く燃え盛る心を持つ不死鳥《フェニックス》のごとく。
 彼は復活したのだった。

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