GatherFriends〜MTG青春日記〜大会編 第10-1幕
2006年6月14日 小説 コメント (1) たとえばここで、道行く100人に以下の質問をしたとしよう。
『今、彼女は怒っている。○か×か?』
そして、100人中100人が『○』を答える。
もしここで『×』の選択肢をとる人間がいるとしたら、それは人間ではない。
人の感情を読み取ることのできない、単なる有機生命体であろう。
〜〜2時間前。〜〜
彼女……香田晶子は、鏡の前に座っていた。
高校入学当初から、ずっと『彼』の背中を見ていた。
憧れ?
いや、彼女の感情は、それ以上のものであった。
実は、一目ぼれだった。彼に近づくために、晶子はマジックを始めた。
偶然にも弟が、マジックプレイヤーであったのが幸いした。晶子はマジックを弟から習い、 MTG同好会に入会した。もちろん、彼に近づく口実を作るために。
「それが……いつの間にか、没頭していたのよね。」
化粧台の横には、化粧水やファンデ以外に、青いケースに入れられたデッキが置いてあった。
中には、彼女の『おきにいり』が準備されていた。
「デートに『デッキを1つ持って来い』だなんて。先輩も変わっているわね。」
彼女は、自分が発した『デート』という言葉にはっとし、自分勝手に顔を赤らめる。
「いやん! もういきなりなんですもの。こっちだって準備があるのに…って何の準備よ香田晶子!
私たちはまだ高校生よ高校生。いろいろと手順を踏んで、そうよまず順番があるのよ順番が。
そう、晴れた駅前、さわやかな笑顔で待つ先輩。遅れてくる私。待った?という私の問いに彼はこう答える。
いや、待ってたぞ。これはペナルティだ、と私の頭をコツン。なにすんのよ!と頬を膨らます私。
彼はそんな私の対応を見て、ゴメンって一言。彼が顔を上げたときには、私は舌をペロッとだして、そして二人で笑顔になる……。」
彼女、香田晶子の妄想は、暴走へと変わる。
「お昼前に、彼は私を映画館へ。もちろんラブロマンスね。ああでも、パニックの中に生まれる愛っていうのも悪くないわ。そう……『豪華客船の乗員救出へ向かう海上自衛隊と、その帰りを待つ女性』……。嗚呼! なんて燃え上がる展開なの!!
そして映画を見終わったあと。私は頬とハンカチを濡らす。彼は、『まあこんなものかな』なんて、泣いている私をからかうけど、わかっているのよ。あなたの目にも涙が溜まっているのを…・・・。
ああ、そして素敵な昼食へ。でも学生だから、そんな立派な昼食なんで無理だわ。ありふれたファミレスで、映画の感想を言い合うの。多分彼のことだから、映画については批判ばかり述べると思うの。でも私は負けない。
私は彼に反発するわ。そして彼に言わせるの。『ああ、面白かったな』。
3時くらいまでファミレスで語り合った後、私たちはデパートへ。もちろん私はウィンドウショッピングのつもりよ。
私はアクセサリー店の前で、きれいな指輪を見つける。きれいだね、って彼に聞いたら、彼も頷く。
すると彼は唐突に私に言う『買ってやろうか?』
値段を確認すると、お世辞にも安い買い物ではない。私だって、見ているだけのつもりだったのに。
もちろん、私は断ったわ。でも彼はそんな私の意見にはほとんど耳を傾けず、いそいそと店員に話しかけ、そして指輪を手に戻ってきていた。
『あ、ありがとう……。』多分私は、ここで心からの感謝を述べてしまうのね。そしてさらに私は、彼の魅力に溺れてしまうの。嗚呼早く! あなたの心に溺れてしまう私を、早く救出艇に連れて行って!
そんな彼とのショッピングを終え、外はいつの間にか日が落ち、私はそろそろ帰宅時間。
『先輩、また月曜に……。今日は楽しかったです。』でも、彼は首を振る。『今日はまだ終わっていないよ。』
ドキ! 私の胸が高鳴る。彼は言葉を続ける『それに、今日という日を最後まで、君と一緒にいたい。』
先輩! 彼の一言に私は、彼の胸に飛び込むの! 溺れかけた私を助けた救助艇には、彼が乗っていた!
私はもう、彼に溺れてそこから救出されないの! キャーー!!
もうお父さんお母さん、ごめんなさい! 今日は『結花の家に泊まりにいく』なんて嘘ついて!!
私、晶子は本日、大人の階段を一気に駆け上りますっ!!
私は今日!! 女の子から女性になることをっ!! ここに宣言しますっ!!!」
「……姉ちゃん。《ロクソドンの教主》と《寺院の庭》、借りていくぞ。」
灰色熊のぬいぐるみをチョークスリーパー状態にしている晶子の後ろ。
晶子の弟である、香田広樹(ひろき)が晶子のレアファイルを漁っていた。広樹は彼女のファイルから《寺院の庭》を抜いていた。
「あ、姉ちゃん、《制圧の輝き》も持ってるじゃん。一枚貸してね。」
さて、もし。
今、晶子が本物のプレインズウォーカーであって、1つだけマジックのスペルが使えるとしたら、彼女は何を唱えるだろう。
《巻き直し》?
《記憶の欠落》?
《時間停止》?
「姉ちゃん、妄想もほどほどにしなよ。」
「……ひろ。あんたどこから居た?」
「ええと。『私たちはまだ高校生よ高校生。』くらいからかな。」
ほとんど全部聞かれているじゃねえか。
もう既に場に出ている(聞かれている)ものに対して、カウンターは意味が無い。
「……神様、私に《抹消/Obliterate》を撃つ力をください。」
「……じゃあ、《来世への旅》メインに入れておこう。」
冷静に返答する弟くん。
その後、数分の間だけ《破壊の宴》がプレイされ続けた。
しかし最終的には、弟に「カードを渡す」ことで、今回の妄想云々関連は内密に処理されることとなった。
「絶対に公言しないでよ……ひろ。特にお父さんとお母さんには……。」
「もちろんいわないよ〜姉ちゃん。姉ちゃんが嘘ついてまで男と会おうとしていたなんて……さ!」
ハハハ、と広樹は笑っていた。
ちなみに彼の手には、《ロクソドンの教主》と《寺院の庭》《制圧の輝き》が握られていた。
ちなみにちなみに、彼の手のカードは、元は晶子のものであるが、「口止め料」として、オーナーが変わっていることを付け足しておく。
〜〜1時間前。〜〜
偶然だろうか。
広樹は、マジックの大会があるといって、今日は横浜に行ってしまった。
そして私も、先輩の待ち合わせ場所が、横浜だった。
偶然だろう。
この辺りで大会があるといえば、横浜を中心としたものが多い。
偶然だ。
そう思いながら私は、白のポシェットを手に取る。中にはデッキが一束入っているが、
出かける際にはいつも使っているポシェットだったので、何が入っていたかは
すっかり忘れていた。
そして私は、出掛け前にテレビの占いを見た。
「…ラッキーカラーは、白と赤、ね。」
私は赤いリボンを取りだし、白い帽子に付けてみた。
つばが広い帽子に赤いリボンは、ちょっと子供っぽく見えるかも。
しかし、服は白のワンピース。そして帽子も白では、何かワンポイントかけているように思う。
鏡の前に立ってみた。
おお、案外良いんじゃないかな?
自画自賛かと思われるが、これでも私の精一杯のおしゃれだ。
やっぱり赤いリボンは、子供っぽく見られるかも……。
あ、でも先輩は、無理して大人を演じないほうが却って受け入れてくれるかも!?
大会受付開始まで、あと1時間。
香田晶子、人生最大の屈辱まで、あと1時間。
ノシ
『今、彼女は怒っている。○か×か?』
そして、100人中100人が『○』を答える。
もしここで『×』の選択肢をとる人間がいるとしたら、それは人間ではない。
人の感情を読み取ることのできない、単なる有機生命体であろう。
〜〜2時間前。〜〜
彼女……香田晶子は、鏡の前に座っていた。
高校入学当初から、ずっと『彼』の背中を見ていた。
憧れ?
いや、彼女の感情は、それ以上のものであった。
実は、一目ぼれだった。彼に近づくために、晶子はマジックを始めた。
偶然にも弟が、マジックプレイヤーであったのが幸いした。晶子はマジックを弟から習い、 MTG同好会に入会した。もちろん、彼に近づく口実を作るために。
「それが……いつの間にか、没頭していたのよね。」
化粧台の横には、化粧水やファンデ以外に、青いケースに入れられたデッキが置いてあった。
中には、彼女の『おきにいり』が準備されていた。
「デートに『デッキを1つ持って来い』だなんて。先輩も変わっているわね。」
彼女は、自分が発した『デート』という言葉にはっとし、自分勝手に顔を赤らめる。
「いやん! もういきなりなんですもの。こっちだって準備があるのに…って何の準備よ香田晶子!
私たちはまだ高校生よ高校生。いろいろと手順を踏んで、そうよまず順番があるのよ順番が。
そう、晴れた駅前、さわやかな笑顔で待つ先輩。遅れてくる私。待った?という私の問いに彼はこう答える。
いや、待ってたぞ。これはペナルティだ、と私の頭をコツン。なにすんのよ!と頬を膨らます私。
彼はそんな私の対応を見て、ゴメンって一言。彼が顔を上げたときには、私は舌をペロッとだして、そして二人で笑顔になる……。」
彼女、香田晶子の妄想は、暴走へと変わる。
「お昼前に、彼は私を映画館へ。もちろんラブロマンスね。ああでも、パニックの中に生まれる愛っていうのも悪くないわ。そう……『豪華客船の乗員救出へ向かう海上自衛隊と、その帰りを待つ女性』……。嗚呼! なんて燃え上がる展開なの!!
そして映画を見終わったあと。私は頬とハンカチを濡らす。彼は、『まあこんなものかな』なんて、泣いている私をからかうけど、わかっているのよ。あなたの目にも涙が溜まっているのを…・・・。
ああ、そして素敵な昼食へ。でも学生だから、そんな立派な昼食なんで無理だわ。ありふれたファミレスで、映画の感想を言い合うの。多分彼のことだから、映画については批判ばかり述べると思うの。でも私は負けない。
私は彼に反発するわ。そして彼に言わせるの。『ああ、面白かったな』。
3時くらいまでファミレスで語り合った後、私たちはデパートへ。もちろん私はウィンドウショッピングのつもりよ。
私はアクセサリー店の前で、きれいな指輪を見つける。きれいだね、って彼に聞いたら、彼も頷く。
すると彼は唐突に私に言う『買ってやろうか?』
値段を確認すると、お世辞にも安い買い物ではない。私だって、見ているだけのつもりだったのに。
もちろん、私は断ったわ。でも彼はそんな私の意見にはほとんど耳を傾けず、いそいそと店員に話しかけ、そして指輪を手に戻ってきていた。
『あ、ありがとう……。』多分私は、ここで心からの感謝を述べてしまうのね。そしてさらに私は、彼の魅力に溺れてしまうの。嗚呼早く! あなたの心に溺れてしまう私を、早く救出艇に連れて行って!
そんな彼とのショッピングを終え、外はいつの間にか日が落ち、私はそろそろ帰宅時間。
『先輩、また月曜に……。今日は楽しかったです。』でも、彼は首を振る。『今日はまだ終わっていないよ。』
ドキ! 私の胸が高鳴る。彼は言葉を続ける『それに、今日という日を最後まで、君と一緒にいたい。』
先輩! 彼の一言に私は、彼の胸に飛び込むの! 溺れかけた私を助けた救助艇には、彼が乗っていた!
私はもう、彼に溺れてそこから救出されないの! キャーー!!
もうお父さんお母さん、ごめんなさい! 今日は『結花の家に泊まりにいく』なんて嘘ついて!!
私、晶子は本日、大人の階段を一気に駆け上りますっ!!
私は今日!! 女の子から女性になることをっ!! ここに宣言しますっ!!!」
「……姉ちゃん。《ロクソドンの教主》と《寺院の庭》、借りていくぞ。」
灰色熊のぬいぐるみをチョークスリーパー状態にしている晶子の後ろ。
晶子の弟である、香田広樹(ひろき)が晶子のレアファイルを漁っていた。広樹は彼女のファイルから《寺院の庭》を抜いていた。
「あ、姉ちゃん、《制圧の輝き》も持ってるじゃん。一枚貸してね。」
さて、もし。
今、晶子が本物のプレインズウォーカーであって、1つだけマジックのスペルが使えるとしたら、彼女は何を唱えるだろう。
《巻き直し》?
《記憶の欠落》?
《時間停止》?
「姉ちゃん、妄想もほどほどにしなよ。」
「……ひろ。あんたどこから居た?」
「ええと。『私たちはまだ高校生よ高校生。』くらいからかな。」
ほとんど全部聞かれているじゃねえか。
もう既に場に出ている(聞かれている)ものに対して、カウンターは意味が無い。
「……神様、私に《抹消/Obliterate》を撃つ力をください。」
「……じゃあ、《来世への旅》メインに入れておこう。」
冷静に返答する弟くん。
その後、数分の間だけ《破壊の宴》がプレイされ続けた。
しかし最終的には、弟に「カードを渡す」ことで、今回の妄想云々関連は内密に処理されることとなった。
「絶対に公言しないでよ……ひろ。特にお父さんとお母さんには……。」
「もちろんいわないよ〜姉ちゃん。姉ちゃんが嘘ついてまで男と会おうとしていたなんて……さ!」
ハハハ、と広樹は笑っていた。
ちなみに彼の手には、《ロクソドンの教主》と《寺院の庭》《制圧の輝き》が握られていた。
ちなみにちなみに、彼の手のカードは、元は晶子のものであるが、「口止め料」として、オーナーが変わっていることを付け足しておく。
〜〜1時間前。〜〜
偶然だろうか。
広樹は、マジックの大会があるといって、今日は横浜に行ってしまった。
そして私も、先輩の待ち合わせ場所が、横浜だった。
偶然だろう。
この辺りで大会があるといえば、横浜を中心としたものが多い。
偶然だ。
そう思いながら私は、白のポシェットを手に取る。中にはデッキが一束入っているが、
出かける際にはいつも使っているポシェットだったので、何が入っていたかは
すっかり忘れていた。
そして私は、出掛け前にテレビの占いを見た。
「…ラッキーカラーは、白と赤、ね。」
私は赤いリボンを取りだし、白い帽子に付けてみた。
つばが広い帽子に赤いリボンは、ちょっと子供っぽく見えるかも。
しかし、服は白のワンピース。そして帽子も白では、何かワンポイントかけているように思う。
鏡の前に立ってみた。
おお、案外良いんじゃないかな?
自画自賛かと思われるが、これでも私の精一杯のおしゃれだ。
やっぱり赤いリボンは、子供っぽく見られるかも……。
あ、でも先輩は、無理して大人を演じないほうが却って受け入れてくれるかも!?
大会受付開始まで、あと1時間。
香田晶子、人生最大の屈辱まで、あと1時間。
ノシ
コメント
第1回戦で弟に負けるに一票入れときますねw